総務部 人事課長
岡田志帆様日神不動産株式会社

人々が豊かで安全に暮らすことができる生活環境を創造し、社会に貢献することを企業理念に1975年に設立した日神グループホールディングス。その分譲マンションの企画・販売事業を2020年1月から承継したのが日神不動産だ。同社がパラアスリートを採用したのは、2017年。現在は、パラリンピック出場を目指す車いすラグビーの和知拓海選手と、東京2025デフリンピックへの出場が内定しているデフ陸上・ハンマー投げの森本真敏選手の2人が所属している。そこでパラアスリートの採用を担当する総務部人事課長・岡田志帆氏にインタビュー。採用のきっかけや、パラアスリートを採用したことによって社内にもたらされたプラスの効果など、話を伺った。
Q御社がパラアスリートを採用するに至った経緯について教えてください。
当社が初めてパラアスリートを採用したのは2017年でしたが、正直それまではパラアスリートを雇用することは考えていませんでした。きっかけは障がい者の法定雇用率が上がっていくなかで、少なくとも1人は雇用しようという話が社内であがったことでした。ちょうどそんな時に、偶然、私の当時の上長がパラアスリートの採用に取り組まれているつなひろワールドさんのことをインターネットで知ったんです。実はその上長も私もスポーツが好きで、サッカーの観戦が趣味だったということもありまして、パラアスリートの採用について関心を持ちました。そこで、つなひろワールドさんに問い合わせをしたところ、竹内圭社長に直接、お話をしていただきました。竹内社長は本当に熱意あふれた方で、パラアスリートを雇用することで障害者雇用率を上げるだけでなく、さまざまな面で会社にとってプラスになる、というお話には大変感銘を受けました。同じ会社の社員であるパラアスリートをみんなで応援することによって、会社の中が活性化し、一体感が生まれると。そんなふうに竹内社長から伺ったお話を社内に持ち帰って話をしたところ、当社もパラアスリートを採用しましょう、ということになりました。
Q2017年2月1日付で、2人のパラアスリートを採用しました。決め手となったのは、どんなことだったのでしょうか。
さまざまな雇用形態があるなかで、はじめはどういう形がいいのか悩んだのですが、初めての採用ということもありましたので、パラアスリート側から考えても競技に専念してもらう形の方が負担は少ないのではないか、ということになりました。そこでつなひろワールドさんから、競技に専念する形を希望しているパラアスリートの方をご紹介いただき、お一人お一人と面談をさせていただきました。そのなかで最終的に2人を採用することになったのですが、まず1人は車いすラグビーの和知拓海選手。当時、彼は20歳と若く、これからパラリンピック出場を目指すという彼の話を聞いて、当社としては純粋に「頑張っている若いアスリートを応援したい」という気持ちになったことが一番の決め手でした。もう1人はすでに当社を退職している方なのですが、ベテランだったこともあって面談の時も非常に円滑に、そして和やかな雰囲気でお話させていただけたので、入社後、社員ともうまくコミュニケーションを図っていただけるのではないか、ということで採用に至りました。
Q2021年9月には、デフ陸上・ハンマー投げの森本真敏選手が入社しました。森本選手についてはどのような経緯だったのでしょうか?
和知選手と同期入社だった選手が退職することになった際、もともと2人いたなか1人のままというのもさみしいですし、応援するにも2人いた方がいいのでは、ということで、募集することになりました。そこでつなひろワールドさんに何人かご紹介いただき、面談をした結果、森本選手を採用することになりました。当社と距離が近い関東在住ということもありましたし、和知選手がチーム競技なので今度は個人競技の選手を支援したい、という当社の希望に沿っていたことが大きな理由でした。コミュニケーションについては、森本選手はふだん手話を使われているということで、正直当初はどうしたらいいのだろうかと不安もありました。ただ実際は、面談やちょっとした立ち話などではチャットや携帯アプリを活用すればスムーズなコミュニケーションが図れますし、会社の行事ごとの際には手話通訳者に来ていただいているので、困るようなことはまったくありません。
Q会社にパラアスリートがいることで、どのようなプラスの効果が働いていると感じていますか?
まずは、それまであまりスポーツに関心を持っていなかった社員のなかにも、同じ会社にパラアスリートがいるということで「応援したい」という気持ちが醸成されたように思います。なかなか直接応援に行くことはできませんが、それでも「応援しよう」という気持ちによって、社員みんなが同じ方向を向く、そんな一体感が生まれたというのは少なからずあると思いますので、会社としてもプラスになっていると感じています。千葉ポートアリーナで車いすラグビーの大会があった際には、社員を誘って応援に行ったこともあります。声をかけると割と興味を示してくれる社員はたくさんいるので、今後はさらに応援の輪を広げていけたらと思っています。
Q和知選手や森本選手の活動については、社内でどのようにして周知されているのでしょうか?
大会やイベントが開催される場合は、その都度、社内で告知しています。また社内の広報誌にも定期的に選手たちの活動報告を載せています。そのほか年に2回、成績発表会という社内イベントがありまして、そこに選手たちも参加して、ふだんは会うことのできない社員たちともコミュニケーションを図る機会を設けています。立食パーティーという形のため移動しやすいので、選手たちを見つけて声をかけてくれる社員がいたり、逆に選手たちの方からも話しかけたりして、とてもいい交流の場になっています。和知選手は入社当初はまだ若かったこともあり、人見知りの部分もありましたが、今では言葉遣いなどを聞いていても、立派な社会人へと成長した姿を見せてくれています。森本選手はもともとお話好きで、場の雰囲気を明るくし、聞いている側の気持ちを温かくしてくださる方です。表情豊かに面白い話をしてくださるので、いつも森本選手の周りは笑顔であふれています。そんなふうに社員たちが実際に2人に触れ合うことで、アスリートである2人への興味・関心だけでなく、障がいのある方たちに対しての認知度を高め、理解度も深まっているようにも感じています。
Q森本選手は、今年11月に開催される「東京2025デフリンピック」の日本代表選手に内定しています。
森本選手はもともとインターハイ、インターカレッジ、国民体育大会(現・国民スポーツ大会)、日本選手権と健常者と同じ舞台で活躍していた選手で、デフリンピックでは初出場の台北大会(台湾、2009年)で金、ソフィア大会(ブルガリア、2013年)で銀と2大会連続でメダルを獲得しました。2013年に一度は現役を引退しましたが、2020年に現役復帰し、2022年のカシアスドスルデフリンピック(ブラジル)では再び銀メダルに輝きました。現在も世界記録保持者ですので、自国開催の今大会でぜひ金メダルに輝いてほしいと願っています。
Qデフリンピックへは応援に行くご予定はあるのでしょうか?
森本選手が当社に入社して初めて迎えた前回のデフリンピックはブラジル開催と場所が場所だっただけに応援には行くことができませんでした。森本選手が帰国後に来社した時には、私も銀メダルを直に触らせていただき、とても感動したことを覚えています。メダルを持たせてもらったら想像していた以上に重くて、改めてデフリンピックでメダルを取ることの重みを感じた次第です。今回は東京で開催されますし、ハンマー投げの会場は大井ふ頭中央海浜公園陸上競技場ですので、当社としてもぜひ応援に駆け付けたいと考えています。
Q今後についてはいかがでしょうか?
社内では社員だけでなく役員クラスからも、和知選手と森本選手を雇用して本当に良かった、という声が多くあがっています。つなひろワールドの竹内社長がおっしゃっていたように、障害者の法定雇用率を上げるというだけでなく、さまざまな面で社内にプラスの効果が生まれていると思っていますので、今年のデフリンピック開催をきっかけにするなどして、さらに2人への応援の輪を広げて会社を盛り上げていきたいと考えています。
(2025.06)