人事部
柳澤恵輔様・萩原直子様株式会社東京ビデオセンター

テレビの番組制作会社として1970年に創業した東京ビデオセンターは、1980年にはスポーツ番組制作部門を設立。報道・情報番組やドキュメンタリーと並んで、スポーツ中継や番組制作にも注力してきた。その同社がパラアスリートを採用したのは、2021年。現在パラアイスホッケー日本代表のキャプテンを務める熊谷昌治選手が入社して4年目を迎えた。そこでパラアスリートの採用を担当する人事部の部長・柳澤恵輔氏と萩原直子氏にインタビュー。採用のきっかけや、熊谷選手を採用したことによってもたらされたものなど、話を伺った。
Q御社がパラアスリートを採用するに至った経緯について教えてください。
当社ではずっと障がい者雇用がゼロの状態が続いており、長年の課題となっていました。そんななか、当社の社外取締役からパラアスリートの採用や、それを専門にしているつなひろワールドさんのことを教えていただいたのが最初のきっかけでした。国内の制作会社でスポーツを一つの部署として独立させているところは珍しいのですが、当社は1980年に「スポーツ制作部門」を立ち上げて、スポーツ関連の企画・制作にも注力しています。社外取締役の方も、そういう当社がパラアスリートを採用することで生まれるメリットは大きいのではないかということで、すすめてくださりました。そこで社内で検討したところ、「確かにそれはいいかもしれない」という話でまとまり、パラアスリートを採用しようということになりました。また、つなひろワールドさんの存在も大きかったです。当社では障がいのある方を雇用するのは初めてのことで詳しい者は誰もいませんでした。そんななか、つなひろワールドさんはもちろんしっかりとした実績もありましたし、単に紹介して終わりではなく、採用後もフォローしていただけるということで、そうしたバックアップ体制もしっかりとしていらしたので、安心して採用に踏み切ることができました。
Q2021年12月にパラアイスホッケー・熊谷昌治選手が入社しました。熊谷選手の採用にあたっては、どのような点を重視されたのでしょうか?
つなひろワールドさんからは、当社の要望に見合う選手をご紹介いただき、20人ほどの選手と面談を行いました。コロナ禍でしたのでオンライン上ではありましたが、一人ひとりとお話をさせていただき、正直どの選手も素晴らしい方たちばかりでした。やはりアスリートということで、「この道で生きていくんだ」という強い意志を持っていて、芯のある方たちだということは、話をしていてよくわかりました。その中から一人を選ぶのは本当に大変でした。当社からは7、8人で面談にあたったのですが、候補にはたくさんの選手があがったんです。「これからの伸びしろがある若手選手がいいのでは?」という人もいれば、「ベテランになっても現役で頑張っている人を会社として応援していきましょう」という人もいて、一人に絞るのはまさに難題でした。そんななかで最終的に決め手となったのは、やはり熊谷選手の人柄でした。もともと当社はとてもアットホームな会社で、ふだんの採用でもスキルや能力、学歴といったことよりも、「人」を重視しています。もちろんほかの選手も素晴らしい人たちばかりでした。ただそのなかでも熊谷選手はパラアイスホッケー日本代表のキャプテンを務めているということからも人間性は申し分ないと思いましたし、実際に話をしていても言葉やしぐさから彼の誠実さが十分に伝わってきました。また年齢的には40代後半(当時)とベテランの域に達していながらも、地道に努力を積み重ねて挑戦し続けるその姿勢に共感できたのも大きかったです。というのも、映像ビジネスの世界は一見派手に見えますが、実際は裏方そのもので地味で地道な作業ばかりです。熊谷選手は、そうした当社とフィーリングが合うだろうと感じました。話し合いの結果、最後には「熊谷選手のようなパラアスリートがいてくれたら、会社としても今後の発展につながっていくのではないか」という意見で一致しまして、熊谷選手の採用が決まりました。
Q実際、熊谷選手はどんな人柄でしょうか?
面談の時の印象とまったく変わらず、とにかく誠実そのものです。入社して3年経ちますが、いつお会いしても、本当に優しさにあふれている方だなと。その一方で、アスリートとしてはすごいバイタリティの持ち主で、「まだまだ若手にも負けない」と気概にあふれている選手です。トレーニングも見せていただいたことがあるのですが、倒立した状態で軽々と腕立て伏せをしてしまうんです。いかに努力しているかが、よくわかりました。日本代表ではキャプテンとしてリーダーシップを発揮し、FWとしても決めるべき時に得点を決める熊谷選手は、チームからの信頼も厚いと思います。まさに尊敬に値する人柄であることは間違いありません。
Qパラアスリートである熊谷選手が入社したことにより、御社ではどのような変化があったでしょうか?
まずは、熊谷選手が入社したことによって社内全体でパラスポーツに対する認識が高まりました。特に彼が所属しているスポーツ制作部では、パラアイスホッケーはもちろん、パラスポーツ全般に広く関心を寄せるようになり、仕事にもつながっています。また日本パラアイスホッケー協会さんとは、試合の映像配信を当社の方でやらせていただくなど、密に連携を図っています。このようにパラスポーツの競技団体と深く関わることは以前にはなかったことでしたので、熊谷選手の入社が大きなきっかけであったことは間違いありません。社内でも熊谷選手の競技活動をバックアップしていこうということで、昨年からクラブチームの日本選手権や、日本代表のジャパンパラ競技大会といった国内で開催される大会に、社員で希望者を募って応援に行くようになりました。今年も1月のジャパンパラに行ったのですが、せっかくなら盛り上げようということで、当社で作った横断幕を掲げたほか、応援Tシャツを着て、小旗を振りながら応援を楽しみました。またYouTubeでのライブ配信の映像も当社がやらせていただいたので、現地に行くことができなかったスタッフは社内の大画面のモニターで応援してくれました。そんなふうにして社員が一つになって応援するなんてことは、熊谷選手の存在がなければないことですので、会社としてもとてもいい機会をいただけているなと感じています。熊谷選手の採用は当社にとってプラスでしかありませんので、社内では今、ぜひほかの競技のアスリートも雇用したいという話があがっています。さらにパラスポーツや障がいのある方たちのことを広く、深く理解する機会が得られる会社になればと思っています。
Q今後についてはいかがでしょうか?
熊谷選手はふだん長野県在住ということもあって、所属先のスポーツ制作部や人事部の社員たちはオンライン上が多いものの、それでも何かと接点がありますので、“仲間の一人"という認識が定着しています。ただそのほかの部署の社員とは、ほとんど接点がないために、まだまだ社内全体にパラアスリートの熊谷選手の存在が浸透しきれていないのが現状です。そこで一人でも多くの社員に熊谷選手のことを知ってもらいたいと思い、昨年から新入社員研修で熊谷選手に講演をしていただいています。事故に遭って障がいを負ったけれど、家族の支えがあって、パラアイスホッケーと出会ったことで、今の自分があるというようなバックグランドを語っていただくのですが、新入社員たちはみんな、壮絶なストーリーの内容に感銘を受けると同時に、話し方や言葉から熊谷選手の人柄の良さを感じてくれているようで、最後の質疑応答の時にはどんどん手があがるんです。やはり直に触れ合うというのは大事だなと感じました。今後も熊谷選手と社員が触れ合う機会をもっと増やしていきたいと考えています。そして、パラアイスホッケー日本代表が来年のミラノ・コルティナパラリンピックに出場した暁には、社員一同、一丸となって応援したいと思っています。
(2025.04)