管理統括本部 管理部 人事課
笠原大輔様・藤原知里様株式会社小学館ミュージック&デジタル エンタテイメント(SMDE)

映像制作、音楽出版、WebサービスやXRコンテンツの開発など、幅広い事業を手がける小学館ミュージック&デジタル エンタテイメント(SMDE)。2025年、同社はデフ陸上競技の樋口光盛選手を、同社初の障がい者アスリート社員として採用した。
樋口選手は、同年に開催された東京2025デフリンピックの男子800mで銀メダルを獲得。同社では大会に向けて応援プロジェクトを立ち上げ、社員が一丸となって樋口選手を応援した。この取り組みは部署を越えた交流を生み、社内の一体感を高めるきっかけとなった。
今回は、応援プロジェクトの中心を担い、樋口選手をサポートしてきた管理部部長の笠原大輔氏と、人事課の藤原知里氏に、採用の経緯や大会期間中の社内の盛り上がり、今後の展望について話を伺った。
Q御社が障がい者アスリートを採用するに至った経緯について教えてください。
以前から障がい者雇用について社内で検討しており、どういう形が一番マッチするのか、行政が開催する説明会に行ったり、障がい者就労支援施設を訪問させていただいたりしながらいろいろと模索していました。そのなかで障がい者アスリートを採用したという企業のニュースの記事を読んで興味を持ったことが最初のきっかけでした。障がい者アスリートを応援することによって社内に一体感を生み出すことができたら、障がい者の法定雇用率を上げるだけでなく、会社にとってプラスの効果があるのではないか、そんな期待感を抱いたからです。そこでどういう手法があるのか、まずは可能性を模索しようと情報収集を行いました。スポーツ団体にも問い合わせるなど、広く情報収集を進めるなかで、つなひろワールドさんのサイトにたどり着きました。すぐに問い合わせをして、直接話を伺いました。当初は障がい者アスリートと一概に言っても、どのように競技活動して、どんなふうに雇用されているのか、まったくわからないところからのスタートでしたが、つなひろワールドさんに一から丁寧にご説明いただき、詳しく知ることができました。弊社では、多くのクリエイターが、よりよい作品を生み出すために日々試行錯誤を重ねています。その姿勢は、目標に向かって努力を積み重ねる障がい者アスリートと、どこか共通するものがあるのではないかと感じました。そこで、弊社の役員や小学館グループの関係者に障がい者アスリートの採用について提案したところ、「ぜひやってみましょう」と前向きな賛同を得ることができました。
グループ内で障がい者アスリートを採用した事例がなかったために、弊社が先陣を切ることでグループ内に何か新しい展開が生まれるのではないかという期待感を持ってもらえたことが大きかったです。
Q2025年6月1日付で、デフ陸上の樋口光盛選手が入社しました。採用の決め手となったのはどんなことだったのでしょうか?
雇用形態は大きく分けて3タイプあったのですが、弊社は現役の間は競技に専念する形態を考えていました。一方で現役引退後も弊社の社員として一緒に働いていただきたいと考えていましたので、将来的な可能性や伸びしろが感じられる選手を希望していました。弊社が希望する働き方に合う障がい者アスリートをつなひろワールドさんから何人かご紹介いただき、面接を行いました。そのなかで樋口選手を採用したのは人柄にほれ込んだというのが一番の決め手でした。今回の採用は、会社に一体感をもたらしてほしいという思いもありましたので、社員を巻き込んでみんなで一緒に応援したくなるようなアスリートがいいなと。そのため人柄は非常に重視していた点でした。樋口選手の一次面接はリモートで行いましたが、画面越しにも、まじめで誠実な人柄が伝わってきましたし、また、家族や周囲への感謝を率直に言葉にする姿も、とても印象に残りました。
競技にかける熱い思いにも弊社として共鳴する部分が多いと感じました。また、樋口選手が弊社のデジタルコンテンツを駆使したエンターテインメント事業にも非常に興味を持ってくれていて、現役引退後も何らかの形で弊社に関わっていきたいと言ってくれていましたので、そういう部分でもマッチしていました。最終面接は当社に来てもらって対面での面接だったのですが、そこでも人柄がよく出ていて、社内でも満場一致で樋口選手に決定しました。
Q樋口選手の勤務形態について教えてください。
樋口選手は大阪在住のため、移動の負担を考慮して、原則としてリモート勤務としています。定期的にオンラインで面談を行い、業務上の連絡や近況の共有をしています。樋口選手の主な業務は、競技活動を通じた広報活動です。競技と仕事を両立しながら着実に成果を挙げ、社員の一人として大きな力を発揮してくれています。
昨年の東京デフリンピックでは800mで銀メダルを獲得し、今年に入ってからも、自身が持つ800mの日本デフ記録を相次いで更新するなど、めざましい活躍を見せています。また、講演活動やメディア出演など、競技以外でも活動の場を広げています。
Q樋口選手の活動については、社内でどのようにして周知されているのでしょうか?
社内の掲示板には出場する大会情報や結果をアップしていますし、弊社サイトに設けた樋口選手のページでは最新ニュースを更新しています。また、今秋からはウェブ社内報の運用を始める予定でいるのですが、コンテンツの一つとして樋口選手のコーナーを作ろうという企画もしています。樋口選手は本当にまじめな性格ですが、親しみやすく、周囲を楽しませてくれる一面もあります。その両面が彼の魅力でもあります。今後はレースの結果だけでなく、そうした樋口選手の人柄が伝わるような情報発信ができたらと考えています。
Q樋口選手を採用したことで、社内ではどのようなプラスの効果が働いていると感じていますか?
弊社には、樋口選手が所属する管理統括本部のほかに、3つの事業部門があります。部署が異なると業務上の接点が少ない社員も多いのですが、樋口選手を応援するという共通の目的を持ったことで、部署を越えた交流が広がり、社内に一体感が生まれてきたように思います。その大きなきっかけが、昨年の東京デフリンピックでした。樋口選手は弊社に入社後、正式に東京デフリンピックの日本代表に選ばれたのですが、せっかく地元の東京で開催されるデフリンピックに弊社の社員が出場するのだから社員を巻き込んで盛り上げていこうということで、人事課では応援プロジェクトを立ち上げました。前例のない取り組みでしたので、運用面で検討すべきことも多くありましたが、人事課のメンバーで一つずつ整理し、社員が参加しやすい応援体制を整えて大会本番を迎えました。その準備の一環として、弊社のデザイン課にも協力を依頼し、スタンドに掲げる横断幕とうちわを制作しました。また、樋口選手がスタンドの応援団を見つけやすいよう、会場で応援する社員全員が着用する赤いビブスも用意しました。さらに、全社員への案内メールの送付や大会ポスターの社内掲示を通じて大会を周知し、応援団への参加を呼びかけました。
大会期間中、最も多い日には約30人の社員が会場に駆けつけました。また、会場に来られなかった社員も、ライブ配信を通じて応援し、会場とそれぞれの場所から、会社全体で樋口選手に声援を送りました。デフスポーツではサインエールで応援するのですが、そのことも忘れてしまうくらいみんな大興奮して「行けー!」「頑張れー!」と大きな声で樋口選手を応援しました。普段は業務上の接点が少ない社員同士も、スタンドでは一緒になって樋口選手を応援しました。800mで銀メダルを獲得した瞬間には、自然と隣同士でハイタッチを交わし、部署の垣根を越えて喜びを分かち合いました。デフリンピック後には、社内で樋口選手への社長賞の授賞式を行いました。当日も大勢の社員が集まり、樋口選手の受賞を祝うとともに、最後には全員で記念撮影をしました。
樋口選手の採用は、もちろん障がい者雇用の促進という社会的意義もありますが、会社全体が盛り上がることで社員に一体感が生まれたということが何よりの成果だったと感じています。本社や関連会社からもヒアリングさせてほしいという連絡があるなど、グループ内でも障がい者アスリートの採用に対して注目が高まりました。
Q今後についてはいかがでしょうか?
昨年の東京デフリンピックで社内の周知も進みましたが、さらに樋口選手の認知度を上げ、社内全体で応援するという機運をもっと高めていきたいと考えています。具体的にはこれから樋口選手とも相談をしながら決めていきたいと思いますが、社員向けの講演会を開いて、直に樋口選手の話を聞いたり、交流する場を設けるということも考えています。樋口選手は関西を拠点としているため、社員と対面で交流する機会は限られています。今後は樋口選手とも相談しながら、日々のトレーニングや競技活動の様子を動画などで社内に発信するなど、社員が樋口選手をより身近に感じられる機会を増やしていきたいと考えています。そして、関東圏内で大会が開催される時には参加者を募って応援に行くなど、デフリンピックの時のように会社全体で盛り上がる機会を増やしていけたらと思っています。
(2026.07)