デフ陸上
樋口光盛 選手株式会社小学館ミュージック&デジタル エンタテイメント(SMDE)

プロフィール
デフ陸上
樋口光盛選手
2000年、大阪府生まれ。中学2年生で陸上を始め、2024年には世界デフ陸上競技選手権に初出場し、800mでは日本デフ新記録を樹立して銀メダル、1500mでは銅メダルを獲得した。2025年に日本で初めて開催されたデフリンピックでは800mで銀メダル、1500mでは5位入賞と活躍した。800m、3000mSCで日本デフ記録保持者。
Qつなひろワールドに登録したきっかけを教えてください。
東京デフリンピックの開催が決定したことが、一つの大きな転機でした。自国でデフリンピックが開催されるなんて、おそらく競技人生で一度きり。その大会で金メダルを取りたいという気持ちが強くありました。当時はフルタイムで働きながらも国際大会でメダルを獲得していたので、そのままの環境でも頑張れば金メダルを狙えたと思います。ただ、人生で一度しかないチャンスを万全の状態で迎えたい、そのためには環境を変えなければとも感じていました。というのも、平日はいつも仕事が終わった後しか練習ができず、その時間には陸上競技場も閉まっているため、トラックで練習する機会がなかなか確保できませんでした。そこで練習環境を整えるために転職することを決めました。転職を決めたものの、何をどうすればいいか分からなかったのですが、同じデフ陸上仲間に「つなひろワールドさんに就職先を紹介してもらった」という選手が何人かいて、そのときに初めてつなひろワールドさんのことを知りました。仲間にすすめられたこともあり、自分でもインターネットでホームページを検索して登録したのがきっかけです。つなひろワールドさんは自分に合った条件の会社を探してくれるだけではなく、入社後も丁寧にフォローしてもらえるので、安心して転職活動ができましたし、今も大変お世話になっています。僕の周りではまだまだつなひろワールドさんを知らないアスリートは多いので、転職を考えている人たちにはぜひおすすめしたいです。
Q2025年6月1日付で、株式会社小学館ミュージック&デジタルエンタテイメント(SMDE)さんに入社しました。採用までの経緯について教えてください。
最初は現役引退後のことも考えて、仕事と競技を両立していきたいと考えていました。そこでつなひろワールドさんには「社内勤務・競技併用型就労」の企業を何社かご紹介いただいたのですが、僕自身が大学を中退していることもあったのか、なかなか採用には至りませんでした。そんな中、紹介してもらったのがSMDEでした。もともとデジタルコンテンツに興味があったので、「ここで働けたらどんなにいいだろう」と思いました。ただ、SMDEは競技活動を業務とする「競技専念型」の就労条件を提示していたので、当初考えていた働き方とは異なり、少し悩みました。それでも記録がどんどん伸びている時期でしたし、東京デフリンピックでの金メダル獲得という大きな目標もあったので、競技に専念する形も今の自分には合っているように思えました。また幼少時代から好きなアニメの制作に関わっているSMDEへの憧れの気持ちもあり、応募することに決めました。2回の面接を経て、採用が決まったという連絡をいただいた時は本当にうれしかったです。
Q面接をするにあたって、不安だったこと、事前にやっておいて良かったと思うことはありますか?
1回目の面接はオンライン、2回目は会社を訪問して対面での面接でした。どちらも緊張したのですが、僕にとって特にハードルが高く、不安が大きかったのはオンラインでの面接でした。僕は普段、補聴器をつけていて、大きくゆっくりと話してもらえれば聞き取れるため、手話なしで会話をすることができます。しかし、オンラインとなるとヘッドホンを介さなければならず、相手の話をきちんと聞き取れるか心配でした。実際に面接を受けてみると、問題なく聞き取ることができたので、自分の聴力であればオンラインでの会話も可能なんだということがわかりました。面接では自分のことをわかってもらいたかったので、何をどう話そうか事前にいろいろと考えました。また、友人にも練習相手になってもらい、伝えたいことをしっかり頭に入れて臨みました。最終面接の際にはかなり早い時間に会社へ到着したので、そこで話す内容を何度もおさらいしました。そんなふうに事前に準備していたおかげで、質問にもなんとか答えることができたかなと思います。ただあまりにも緊張していたので、何を話したのかはほとんど覚えていません(笑)。
それと、僕が一番に伝えたかったことを面接で言えなかったのは悔やまれました。SMDEには「その“ココロ"を動かそう」という、人々の心を動かし、夢や希望を届ける理念があります。僕自身も、陸上を通して見ていただいた人たちの心を動かしたいという思いを持っていたので、その理念には共通するものを感じました。そこに深い縁を感じ、SMDEに入社して僕も一員になりたいと思ったのが、志望した一番の理由でした。そのことを話そうと思っていたのですが、面接では言えずに終わってしまいました。特に最終面接はあまりうまく話せなかったと思っていたので、正直自信がありませんでした。だから内定の通知をいただいた時はびっくりしましたが、自分なりに一生懸命に準備して臨んで良かったと思いました。
Q現在の勤務形態、業務内容を教えてください。
本来は平日勤務で土日が休みなのですが、僕がいつも練習に参加させてもらっている大学の陸上競技部は土曜日も練習があるため、火曜日から土曜日を勤務日、日曜日と月曜日を休日とさせていただいています。また、大阪在住のため東京のオフィスに通うのは大変だろうからと、出社日も特に設けられておらず、不定期にオンラインで報告やミーティングを行う形をとっていただいています。入社して1年以上経ちますが、僕が競技に専念できる最高の環境をつくっていただいていて感謝しかありません。SMDEに入社して本当に良かったと思っています。
Q2025年の東京デフリンピックでは、社内で結成された応援団の前で大活躍でした。
東京デフリンピックでは、社員の方々に会場に来てもらい応援していただけたことが、自分にとって本当に大きな出来事でした。後から聞いたところ、多い日には30人ほどの方々が応援に駆けつけてくれたそうです。はじめはレースに集中していて応援団に気づかなかったのですが、800mのレースでゴールした後に銀メダルが確定して喜んでいたら、スタンドに赤いビブスの集団が見えました。「あれは何だろう?」と思ってよく見たら、自分の会社の人たちで、本当にうれしかったです。「こんなにも自分の走りを見たいと思ってくれる人たちがいてくれるんだ」と感じ、改めてSMDEの一員になった自分は幸せだなと思いました。1500mのレース後、応援スタンドに行って感謝の気持ちを伝えたのですが、その時はメダルを獲得できなかった悔しさであまりうまく話すことができませんでした。それでも皆さんから「お疲れさま」「いいレースだったよ」と温かい言葉をかけていただき、すごく心にしみました。
Q今後、挑戦したいことはありますか?
SMDEは部署ごとにフロアが分かれていることもあり、普段はなかなか交流する機会がない人もいると思います。だからこそ東京デフリンピックの時のように、僕の競技活動を通して社内により一体感が生まれるような、そんな存在になりたいと思っています。また、自分の経験を生かして会社の役に立ちたいという思いもあります。例えば、僕自身も前の会社ではフルタイムでデスクワークをしていたのでよくわかるのですが、ずっと座った状態で仕事をしていると姿勢が悪くなってしまうんです。そこで、そういう時におすすめのストレッチ方法をお伝えするセミナーのようなことができないかなと考えています。姿勢が改善されれば健康にもいいですし、仕事の効率も上がることが期待されますので、社員の皆さんにも喜んでもらえるのではないかと思います。そんなふうに陸上を通して身に着けたフィジカル的な知識を生かして、社員の健康面に寄与できたらといいなと思っています。もちろん、現在の本業は競技ですので、いい結果を出すことも重要です。最終目標は日本選手権に出場すること。現在、僕が持つ800mのデフ記録は1分50秒で、日本選手権に出場するための参加標準記録1分47秒50まで、あと2秒というところまで迫っています。1分50秒の記録を出した時は、一気に2秒更新しているので、結構現実味を帯びてきたなと感じています。ぜひ日本選手権という舞台で社員の皆さんにスタンドで応援していただき、走る姿を見てもらえたらうれしいですね。
(2026.07)