HR本部 総務部 担当部長
木村行紀様APRESIA Systems株式会社

「つくって、つないで、つくし、人と社会を豊かにする」を理念に掲げ、イーサネットスイッチ/光伝送装置開発のパイオニアとして旧日立電線株式会社からカーブアウトしたAPRESIA Systems株式会社。お客様から高い性能を要求される市場において目まぐるしく変化する時代に対応したネットワークを築き、圧倒的な安定性で信頼を築き上げてきた。その同社がパラアスリートを採用したのは2019年。パラパワーリフティングの日本記録保持者・成毛美和選手と、2023年のワールドカップで優勝したデフフットサル女子日本代表メンバーの中島梨栄選手が入社して今年で6年目となる。そこでパラアスリートの採用を担当するHR本部総務部の木村行紀氏にインタビュー。採用のきっかけや、ふだん心がけていること、今後について話を伺った。
Q御社がパラアスリートを採用しようと思ったきっかけについて教えてください。
弊社は1980年初めにネットワーク製品事業へ参入し2016年12月にカーブアウトしましたが、カーブアウト後は3年間も障がい者法定雇用率を満たしていませんでした。2018年に1名採用しましたが、それでも雇用率を充足できませんでした。企業の社会的責任の観点からも採用は継続していましたが、せっかく入社されてもお互いの理解や認識不足のために十分に活躍できなかったり、最悪の場合トラブルに発展しその結果退職してしまう事態は避けたいと考えていました。どのような業務を担ってもらえるか、またどういう支援・配慮が必要なのか、双方にとってwin-winとなるようにしたいのですが、採用後のイメージが固まらずに悩んでいました。ある日「障がい者雇用」というキーワードでネット検索していたところ、つなひろワールドさんのホームページを見つけ、「パラアスリート採用」があることを初めて知りました。そこで、つなひろワールドさんが主催する説明会にすぐ参加し、お話を聞いているうちに「これなら弊社が懸念していたこともクリアできるのではないか」と思いました。雇用形態は「競技専念型就労」「社内勤務・競技併用型就労」「競技支援型就労」の3種類があり、「競技専念型就労」は競技活動を通じて企業のブランド価値向上や社会貢献へ寄与することが業務とみなされる形態でした。この形態であれば、特別に職場環境や設備を整える必要もなく比較的早期に弊社に迎え入れられる、自身の目標・軸をしっかり持たれているアスリート人材を採用できると確信しました。セミナー後につなひろワールドの竹内圭社長とお話しする機会をいただいた際には、私の疑問や不安に対してとても熱くかつ親身にアドバイスしてくださいました。そのおかげで弊社経営幹部への提案もスムーズに進み、晴れてパラアスリート採用に向けてGoサインをもらうことができました。
ここだけの話ですが、竹内社長の著書「人事課 桐野優子」からもたくさんノウハウを授かりました。竹内社長には本当に感謝しています。(笑)
Q2019年3月1日付で、パラパワーリフティングの成毛美和選手、デフフットサルとデフゴルフで活動している中島梨栄選手が入社しました。2人を採用した理由は何だったのでしょうか。
実は弊社の求人に9名もの方からご応募いただけて、驚きと同時に大変ありがたいと思いました。採用のポイントとして考えていたのは、競技の実績や選手生命の長さです。中島選手はデフリンピック(聴覚障がいのアスリートを対象とした国際総合スポーツ競技大会)やワールドカップに出場するなど実績は十分ですし、年齢的にも長く世界で活躍が期待できる選手でした。また、弊社は茨城県土浦市に大きな拠点があり、その近隣にお住まいのアスリートも是非採用したいと思っていました。土浦市近隣にお住まいの成毛選手は日本記録保持者で世界選手権にも出場した実績があります。パラパワーリフティングは選手生命が長く、少なくともあと10~15年は競技界の第一線での活躍が期待でき、まさに弊社の希望に適った方でした。成毛選手・中島選手とも明るくて温かい素敵な方々で、アスリートとしても人としても素晴らしい方です。そんなお二人にめぐりあえたこと、弊社の仲間になってもらえたことは本当に奇跡だと感謝しています。
Q2人を採用して今年で6年目となります。実際パラアスリートを採用してみていかがでしょうか?
お二人が出社する機会は多くありませんので、ほかの社員との接点がどうしても少なくなります。そこで弊社とお二人の関係が疎遠にならないように、「私たちの仲間が世界と戦う様子」を社内ポータルサイトへ発信しお二人の活動を周知するように心がけています。たとえば、国内大会に出場する際には「ぜひ現地で応援してください」と試合日時や会場などの情報を周知したり、YouTubeでライブ配信がある場合はURLも載せたりしています。私は都合がつく限り会場に足を運んでいますが、応援に駆けつけてくれる社員も少しずつ増えてきており大変嬉しく思っています。また、年に2回お二人に出社していただいて社内報告会を開き、出場した大会での結果や今後出場予定の大会について語ってもらっています。その際は若手社員とのランチ会などの交流も行ったり、各職場を回って一緒に写真を撮ったりして盛り上げています。
Q木村さんは何度も大会に足を運んでいるとのことですが、印象に残っていることはありますか?
お二人が真剣に勝負している姿に胸が熱くなり、いつも応援に力が入っています。なかでも入社の翌月に行われた京都でのパラパワーリフティング大会は、私自身にとって初めてのパラスポーツ観戦でもあり、とても印象に残っています。お二人が入社するまでパラスポーツはほとんど何も知りませんでしたし、当然生で観戦したこともありませんでした。この大会で成毛選手がご自身の持つ41㎏級の日本記録を更新し55㎏(当時)で優勝された際は心が躍りました。改めてものすごい選手が仲間になったのだなと思いましたし、成毛選手の車いすに弊社のロゴシールが貼られていることにも感動しました。試合会場が京都でしたので関西営業所の社員も応援に駆けつけてくれて、全員で日本新記録の瞬間を目の当たりにし大興奮でした。最初の大会でそんな感動を味わったこともあって、以降もお二人の応援に行くのが楽しみになっています。また、中島選手が日本代表メンバーとして出場した2023年11月の「第5回ろう者フットサルワールドカップ」で優勝した時も大変嬉しかったです。開催地がブラジルでしたので現地へ行くことはできませんでしたが、ライブ配信で全試合観戦しました。ハットトリックを決めた時や決勝で王者ブラジルをPK戦で破り史上初のワールドカップ制覇した瞬間は「ヨッシャーーー!!」って大声で叫んでいましたね。(笑)
Qご担当者の木村さんが心がけていることはありますか?
まずはお二人と私との間にしっかりとした信頼関係を築いていくことが大切です。
私自身が情熱をもってサポートしていくことや、密に連絡を取り合いお互いのコミュニケーションを活性化することを心掛けてきました。また、会場に足を運ぶことも信頼を築くうえでは非常に重要です。パラパワーリフティングは国内大会が年2回と少ないので成毛選手の勇姿を見られる機会が限られていて残念ですが、デフフットサルはクラブチーム同士のリーグ戦が都内でありますので、シーズン中はよく見に行っています。2023・2024シーズンは計13回応援に行きましたね。
Q今後については、いかがでしょうか?
お二人の競技活動に関心を寄せる社員をもっと増やして、ゆくゆくは大応援団のような感じで盛り上げていけたらいいなと思っています。本社からほど近いところにある築地本願寺で成毛選手のパラパワーリフティング大会が行われることもありますし、また、今まさに中島選手が出場権獲得を目指している2025年11月のデフリンピックは日本初開催で、多くの競技会場が都内です。アクセスも良いので、ぜひ多くの社員に同じ会社の仲間が自らの高みへ挑戦し続ける姿を生で見てもらえたら嬉しいですね。こうした刺激を受けることで、仕事へのモチベーションアップや、自分が働く会社にさらに誇りをもつことにつながればいいなと思います。日の丸と弊社のブランドを背負い、世界を舞台に戦っているアスリートですので、弊社としてサポートできることはまだまだたくさんあるはずです。今後さまざまな課題が出てくるかもしれませんが、情熱をそそぎ続けていけば道は開けると信じています。これからももっともっと取り組んでいきます。
こうした私たちの地道な活動が、パラアスリートやパラスポーツへの理解をさらに深めるきっかけとなり、それが障がいがあってもなくても同じようにいきいきと活躍できる社会に近づく一助になると考えます。よく最近はDE&Iが話題にのぼりますが、そうした社会を実現するには自分も多様性を構成する一員だと気づくことが重要で、弊社としてはそうした取り組みを一歩一歩進めていきたいと思っています。
(2025.5)